自覚症状がないまま進行する腎臓病、放置すると将来の医療費が激増?データで見るリスクと対策習慣
健診で異常なしでも安心できない?見過ごされがちな腎臓の健康
健康診断の結果を受け取るたびに、「また何か指摘されているのではないか」と不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。高血圧、脂質異常症、高血糖、肥満など、様々な項目に一喜一憂されていることと存じます。これらの指摘項目は、将来の病気リスクを高めるだけでなく、その治療にかかる医療費にも大きく関わってきます。
中でも特に注意が必要でありながら、自覚症状が乏しいため見過ごされやすいのが「腎臓」の健康です。腎臓は体にとって非常に重要な臓器であり、その機能が低下すると、将来的に医療費が激増するリスクを抱えることになります。
腎臓が担う重要な役割と、病気に気づきにくい理由
私たちの体には、左右に一つずつ腎臓があります。この小さな臓器は、生命維持に欠かせない非常に多くの役割を担っています。主な働きは以下の通りです。
- 体内の老廃物や余分な水分をろ過し、尿として排泄する
- 体内の水分量や電解質(ナトリウム、カリウムなど)のバランスを調整する
- 血圧を調整するホルモンを分泌する
- 赤血球を作るのを助けるホルモンを分泌する
- 骨を丈夫にするビタミンDを活性化する
このように、腎臓は文字通り「体の浄水器」として、血液をきれいにするだけでなく、全身の機能維持に深く関わっています。
しかし、腎臓の機能は、たとえ片方の腎臓が機能を失っても、残りの腎臓が補うなど予備能力が高いため、機能が相当低下するまで目立った自覚症状が現れにくいという特徴があります。体がだるい、むくみやすいといった症状が出たときには、すでに病気がかなり進行しているケースも少なくありません。これが、「沈黙の臓器」と呼ばれるゆえんであり、自覚症状がないからといって安心できない理由です。
腎機能の低下が招く病気リスクと将来の医療費
腎臓の機能が低下すると、「慢性腎臓病(CKD)」と呼ばれる状態に進展することがあります。CKDは進行性の病気であり、一度悪くなった腎臓の機能を完全に元に戻すことは難しいとされています。
CKDが進行すると、以下のような様々な健康問題を引き起こすリスクが高まります。
- 腎不全: 腎臓の機能が著しく低下し、体内の老廃物や余分な水分を自分で排泄できなくなる状態です。
- 心血管疾患: 動脈硬化が進行しやすく、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
- 貧血、骨粗しょう症: 腎臓が関わるホルモンやビタミンの働きが悪くなることで起こります。
そして、腎不全が進行し、腎臓の機能が健康なときの1割程度まで低下すると、命を守るために「腎代替療法」が必要となります。代表的な腎代替療法には、人工透析(血液透析や腹膜透析)や腎移植があります。
これらの治療は、命をつなぐために非常に重要なものですが、医療費の負担も大きくなります。
人工透析にかかる医療費の目安
人工透析(特に血液透析)は、週に複数回、病院やクリニックに通院して行うのが一般的です。生涯にわたって継続する必要があり、医療費は非常に高額になります。
データによると、人工透析にかかる医療費は、1人あたり年間概ね500万円を超えると言われています。これは医療費全体の約4パーセントを占めるという統計もあり、いかに高額であるかが分かります。
日本では、高額医療費制度があるため、自己負担額には上限が設けられています。所得によって上限額は異なりますが、たとえ高額医療費制度を適用しても、毎月数万円程度の自己負担が発生することが一般的です。これに加えて、通院のための交通費、食事療法のための費用、体力低下による労働機会の減少なども、間接的な家計への負担となります。
このように、腎臓の健康を放置しCKDが進行してしまった場合、ご自身の体への負担はもちろんのこと、家計への経済的な負担も極めて大きくなるという現実があるのです。
将来の医療費を減らすために今日から始められる腎臓を守る習慣
では、将来の医療費負担を回避し、健康な腎臓を保つためには、どのような習慣が有効なのでしょうか。健診での指摘が多い方、過去に健康習慣が続かなかった経験がある方も、無理なく生活に取り入れられることから始めてみましょう。
1. 食生活の見直し
- 減塩を意識する: 塩分の摂りすぎは血圧を上げ、腎臓に負担をかけます。加工食品、麺類の汁、漬物、干物、練り物などに多く含まれる塩分に注意しましょう。外食やコンビニ食が多い場合は、薄味のものを選んだり、汁物を残したりする工夫が有効です。出汁や香辛料、レモンなどを活用して、薄味でも美味しく感じられるようにすると継続しやすくなります。
- 適正なたんぱく質量にする: 健康な方であれば極端な制限は不要ですが、過剰なたんぱく質摂取は腎臓に負担をかけることがあります。バランスの取れた食事の中で、必要な量のたんぱく質を摂るようにしましょう。
- バランスの良い食事: 野菜、きのこ、海藻など、カリウムや食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂りましょう。これらは体内の余分な塩分排泄を助けたり、血糖値の上昇を緩やかにしたりする効果が期待できます。
2. 適度な運動
運動不足は、肥満や高血圧、糖尿病などの原因となり、間接的に腎臓にも負担をかけます。ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの有酸素運動を、無理のない範囲で週に数回取り入れるのが理想です。
PC業務などで座っている時間が長い方は、1時間に一度は立ち上がって体を動かす習慣をつけましょう。デスク周りを軽く歩いたり、ストレッチをしたりするだけでも血行が促進され、腎臓への負担軽減につながります。既存の記事でもお伝えしたように、座りすぎは様々な健康リスクを高めますが、腎臓の健康にとっても良い影響はありません。
3. 禁煙・節酒
喫煙は血管を傷つけ、腎臓への血流を悪くするなど、腎臓に直接的な悪影響を与えます。腎臓病のリスクを大幅に高めるため、禁煙は腎臓を守る上で非常に重要です。アルコールの過剰摂取も腎臓や肝臓に負担をかけるため、適量を心がけましょう。
4. 適正体重の維持
肥満は高血圧や糖尿病のリスクを高め、腎臓にも負担をかけます。BMI(体格指数)を参考に、適正体重を維持することが腎臓の健康につながります。
5. 血圧・血糖コントロール
健診で血圧や血糖値が高いと指摘されている方は、医師の指導のもと、これらの値をしっかりと管理することが極めて重要です。高血圧や高血糖の状態が長く続くと、腎臓の血管が傷つき、腎機能が低下する大きな原因となります。生活習慣の改善に加え、必要であれば適切に薬物療法を行いましょう。
6. 薬の適切な使用と定期的な健診
市販の痛み止めやサプリメントの中には、腎臓に負担をかけるものがあります。自己判断で長期にわたって服用せず、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。また、ご自身の腎臓の状態を知るためには、定期的な健康診断が不可欠です。尿検査でのたんぱく尿や血尿、血液検査でのクレアチニン値やeGFR(推算糸球体ろ過量)といった項目は、腎機能の低下を示す重要なサインとなります。健診結果を軽視せず、異常を指摘されたら必ず医療機関を受診してください。早期に発見し対策を始めることで、病気の進行を遅らせ、将来の医療費負担を減らすことにつながります。
小さな一歩が将来の大きな安心につながる
腎臓病は自覚症状がないまま進行することが多いため、「自分は大丈夫だろう」と考えがちです。しかし、一度機能が低下してしまうと、元に戻すのは非常に難しく、将来的に高額な医療費がかかる人工透析などが必要になるリスクがあります。
ご紹介した習慣は、どれも日々の生活の中で少しずつ取り組めるものばかりです。完璧を目指す必要はありません。まずは「今日の食事は少し塩分を控えてみよう」「座っている時間を少し減らしてみよう」といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
ご自身の腎臓の健康を守るための日々の努力は、将来の病気リスクを減らし、高額な医療費負担から家計を守るための、最も確実で有効な「投資」と言えるでしょう。定期的な健診でご自身の体の状態を把握し、無理なく続けられる習慣を一つずつ積み重ねていくことが、健康で経済的な安心のある将来への道を開く鍵となります。